設定は学園エヴァ。アスカとシンジが幼馴染の、一戸建ての隣人です。
15歳の誕生日まで、あと364日なのよ!
つまり、昨日私は14才になったんだけどさ。
誕生日プレゼントで、今年ももらえなかったものがあるから。
来年こそは絶対にもらおう、って思ってるの。
そのために、一年かけてしっかりと計画よ!
アスカ様生誕記念SS・その3
もらえなかったプレゼント
「ふぁぁ…」
「アンタ、凄い欠伸。寝てないの?」
「だって、昨日あんな時間まで引きとめたの誰だよ。2時だよ、午前2時。
それから、宿題やって、お風呂入って、起きてきた母さんに説教くらって…。
寝たの4時だもん。3時間くらいしか寝てないや」
「アンタ、馬鹿ぁ!宿題なんか帰ってきてすぐしなさいよ!
はん!要領悪いのは幼稚園のときから変わんないわね!
私なんか昨日帰ってすぐに片付けたもん!」
「え?そうだったの?おかしいな…?」
「は?何が?」
「僕が寝るとき、アスカの部屋の電気点いてたじゃないか」
げっ!
シンジからのプレゼントにずぅっと見とれてて、
それでもって妄想の世界に行っちゃってて、
気がついたら夜が明けちゃってたなんて、言えないわよ!
「はん!アンタ、ストーカー?女の子の部屋をチェックなんかしちゃってさ!
あ、それとも、愛しい私をいつも見ているってわけぇ?!」
あとのは本音。絶対に気付いてくれないけど。
「な、なに、言ってんだよ!
そ、それに、アスカのせいじゃないか!」
「へ?どうして私のせいよ!」
「あ!忘れてるんだ!
小学校3年のときに、寝る前には私の部屋に向かって、
おやすみの挨拶をするのよ!って強引に決めたじゃないか!」
「はぁ、はぁ、はぁ。うん、そんなことあったかもしれない」
私は空を見上げて、しらばっくれたわ。
だって、これは2010年の9月12日。
晩御飯のあとに、エポ○クの復刻野球盤で遊んでて、
私が8対3で勝った時に約束させたことなの。
シンジとのことは何でも覚えてるわ!
私の記憶が間違いないかどうかは、愛の日記帳で確認できるの。
二人の愛の日記帳は幼稚園のゆり組のときに第1巻が作成されて、
今はなんと第63巻。
これは何の脚色もない、オフィシャルの記録集なの。
ジ○ポニカ大百科事典の後ろに隠してるけど、そろそろ危なくなって来たわ。
うん、今度リフォームしてもらって、専用の隠し戸棚を作るのもいいな。
ゆり組の担任だったマヤ先生、ありがとう。
字を覚えるのを嫌がってた帰国子女だった私に、
二人のことを日記帳に書いていくといいわよ、って教えてくれたの。
一番最初の日の文章もしっかり覚えてるわ!
2006年5月25日。
『しんじ、だいすき、おをきくなったら、けっこんするはよ』
この日記をはじめてから、どんどん語学力が向上したのよね。
うん、マヤ先生は立派な教育者だった。
そういや、今年の年賀状、まだ<伊吹>だったわよね。
早くいい男見つけないと、私の名字の方が先に変わっちゃうぞ。
あっと、また妄想モードに入りかけてる。
また校門を通り過ぎるところだったわ。危ない、危ない。
うっ!殺気!
私はシンジの腕を取って、引き寄せたわ。
「わ!いきなり何するんだよ!」
ザザザッ!
シンジのいた場所に砂埃が上がった。
ふぅ…。危なかった。
この乱暴な登場の仕方は、アンタね!
霧島マナ!
このツルペタ胸のカマトト娘!
「あ〜!シンジくんがいな〜い!」
行くわよ!シンジ。
砂埃が晴れないうちに昇降口へ行かなきゃ。
アレが出たって事は、アッチも出るわよね。
靴を下足箱に入れてっと。
はっ!この冷気は!
変わり身の術!
「おはよう、碇君。今日は貴方のためにお洒落してきたの。
ううん、外からは見えないところ。でも貴方になら見られてもいい…。
貴方、誰?貴方は碇君じゃない。誰?」
ビンタ、ビンタ、ビンタ、ビンタ、ビンタ……。
今日の犠牲者はケンスケね。
シンジは私に引きずられて、無事着席。
ツルペタカマトト娘と、冷血フシダラ娘も着席。
二人とも、シンジへの熱〜い視線と、私への憎しみの篭った視線を同居させている。
ホントに器用な人たち。
この二人が出現してから、私の一生の設計は大きく歪んでしまったのよね。
夏休み明けに転校してきたこの二人が、まさか二人ともシンジラブになっちゃうなんて。
これまでは私とシンジの絆の深さに、誰もちょっかいをかけてこなかったのに。
この二人は遠慮も呵責もないのよ。
もう、毎日が戦場よ!
朝と昼休みと放課後。
この3大決戦タイムで、極悪エイリアンからシンジを守り抜くこと。
それが毎日、私へ与えられた使命なの。
今日も、2大怪獣キングツルペタンとコールドフシダラーを撃退して、シンジと仲良く下校よ。
「馬鹿シンジ、今日は何すんの?」
「え、うん、まず宿題」
「へぇ、真面目なんだ」
「何言ってんだよ、今朝アスカが宿題は帰ってすぐしろって言ったじゃないか」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
「じゃ一緒にしよ!ね」
「あ、別にいいけど」
「どっちで?」
「今日はアスカんちでいい?部屋ちらかってるから」
「いいわ!すぐきていいわ!なんなら、そのまま来てもいいわ!」
「うん、じゃこのまま行くよ」
「OK!ははん!」
今日はいい日ね。
でも、こんなにモロバレな態度なのに、ど〜してシンジは気付いてくれないんだろ。
あのね、昨日の誕生日プレゼント、嬉しかったよ。
オルゴール可愛かった。
ずっと鳴らして、うっとり聴いてたんだよ。
シンジからの誕生日プレゼントは、毎年楽しみにしてるの。
シンジって私が喜ぶものがわかるみたい。外れなんか1回のないもの。
でもね、毎年、楽しみにしてて、絶対にくれないものがあるの。
小学校1年の誕生日から待ってるんだから。
それはプロポーズの返事。
あの日。
2008年12月4日。
誕生日のパーティーのときに、私が宣言したのよ。
「あたし、しんじのおくさんになるの!」
「え、え、ぼく、ぼく…」
「しんじはあたしがきらい?」
「ううん、すきだよ、あすかだいすき」
「じゃふたりはけっこんするの」
「う〜ん、いまへんじしないとだめ?」
「だめ!でもいいわ。たんじょ〜びにへんじきかせなさいよ。
はん!でもかんけ〜ないのよね。
しんじがなんていっても、あたしはしんじとけっこんするんだから」
私、その日からずっと毎年待ってるんだから。
シンジの返事を。
もちろん、OKってことはわかってんの。
でも、でもね…。
やっぱり、はっきりとした言葉で欲しいじゃない?
「はい、お終い!」
「え、もう終わったの?」
「はん!数学なんてちょろいちょろい!」
「う〜ん、アスカは理数系得意だもんな」
ギロッ!
「あわわわ、全科目でした。ごめんなさい」
「はん!学年TOPに向かって…はっくしゅん!」
「風邪?」
「違うと思うけど…へっくしゅん!」
う〜ん、可愛くクシャミってできないわね。
「2回だったら、噂されてるんだ。よくない噂」
「よくない?じゃ、あいつ等ね、ツルペタと冷血だわ」
「ははは、アスカの天敵だよね」
「はん!あいつ等がいる限り、私は学校を休むわけにはいかないのよ!」
「え?どうして?」
「あのね、アンタにちょっかいかけてくるからでしょうが。
あんなのに引っ掛かったら、アンタは不幸のどん底よ。
私は幼馴染としてよね、そんなことは許すわけにはいかないんだから!」
「はは、大丈夫だよ」
「何が大丈夫よ」
「え?だって、婚約者のいる男にわざわざ言い寄らないでしょ」
あ〜、なるほどね…。
……。
……。
……。
「えぇ〜っ!婚約者ぁっ!アンタ、いつの間に、誰と婚約したのよ!」
「え?2008年12月4日に、アスカと」
「はへ?嘘?」
「本当」
私はジ○ポニカ大百科事典を本棚から一気に払い落とした。
雪崩のように床に落ちる、全32巻。
えぇ〜と、2008年12月4日は第3巻の48ページ!
私は問題のページを開けて、むさぼり読んだ。
書いてないじゃない!
「馬鹿シンジ!」
私は腰に手をやって、第3巻の48ページを開いてシンジに突き出した。
「アンタ、嘘言っちゃ許さないわ!どこにも書いてないわ!」
「嘘じゃないよ。絶対に言った」
「だって、書いてないもん!これはオフィシャルの記録なのよ!
シンジのことならすべて書かれているの!」
こうなったら、秘密も何もあったもんじゃない!
私は全63巻・現在進行中の愛の日記帳をシンジに見せ付けてやったわ。
「ほら!私は毎日毎日、アンタのことを記録してんのよ!
そんな大切なこと書き漏らしているわけないでしょ!」
「違う!僕はちゃんと返事した!」
私とシンジはコタツを挟んで睨みあったわ。
なんか根本が外れてるような気がするんだけど、これだけはゆずれないわ!
私とシンジの愛の記録にケチを付けようって言うの?
私は問題のページを朗読してやったわ。
『8じになってぱあてぃはおわったの。アスカはとってもざんねん。
もっとシンジといっしょにいたかったんだもん。
シンジにもらったおさるさんのぬいぐるみはとってもかわいいの』
私はベッドサイドを指差したわ!
「ほら、お猿さんはちゃんとそこにいるし、毎晩抱いて寝てるのよ!」
シンジは思い切りにやけた顔になっている。
「アンタ、何しまらない顔してんのよ。続けるわよ。
『でもシンジはわたしのぽろぽおずにへんじをしてくれなかったの。
アスカはかなしいわ。なみだがでてきちゃった。ぐすん』
ほらほら!アスカは泣いちゃったじゃない!可哀相に!
『でもわたしはまつの。ずぅとまつの。
おたんじょうびのひに、シンジがへんじをしてくれるの。
おむこさんになりますって、いってくれるんだから。
アスカはシンジがだ〜いすきなんだもん!
らいねんはいってくれるかな?おやすみ、シンジ』
いい子よね、アスカは。健気じゃないの。
ほら!この全63巻・現在進行中のオフィシャル記録集には、
アンタの返事なんて少しも書かれてないわ!」
「でも僕は言った。絶対に言った!」
「はん!何年何月何日何時何分何秒に言ったのよ。答えられないでしょ!」
「2008年12月4日午後7時28分32秒だよ!」
「へ?」
「ちゃんとオフィシャルDVDの第29巻のチャプター7に記録してあるんだ!」
「オフィシャル…DVD?」
「そうだよ!全276巻・現在進行中のオフィシャル記録集だ!
嘘じゃないぞ!ほら、ついてこいよ!アスカ!」
私は興奮してるシンジに手を握られて、引きずられるようにお隣に連れて行かれたわ。
「行ってらっしゃい、アスカ。晩御飯はどっち?」
「ごめん、わかんない!」
「おじゃましました!」
「おかえり、シンジ。晩御飯はどっち?」
「わかんないよ!」
「おじゃまします!」
ドタバタドタ。
2階のシンジの部屋に到着。
シンジは私の手を離すと、本棚の上のビデオラックの前に立った。
そして、世界の料理ショーDVD全集全300巻の棚を…。
え〜!その棚動くの〜!信じられない!なんて仕掛けなのよ、凄いよシンジ!
あわわ!その後ろにズラリと並んだDVDの大群。装丁まで揃えてるじゃない!
「これだ!オフィシャルDVD第29巻!」
シンジは抜き出したDVDを高々と掲げたわ。シンジ、かっこいい!
シンジは再生機にセットして、モニターの電源を入れた。
わくわく、どきどき。
「チャプターァ〜、セブン!」
うぅぅぅ〜!出てくる、出てくるわ!心臓が破裂しそう!
画像は、私の家のリビングよ。
カメラマンはゲンドウおじさまね。
げげげ!私が喉を詰まらせてる!
『きゃっ!アスカちゃんが』
『背中叩いて!』
『あすか!あすかぁ!』
『大丈夫よ。シンちゃん、アスカ欲張りだからケーキ頬張りすぎたの』
『うわ〜ん、あすかがしんじゃうよぉ!あすかぁ!』
『く、くるじい…』
『あ〜ん、あすかをしなさないで!ぼく、あすかのおむこさんになるんだから!
あすかとけっこんするんだから!あすか、あすかぁ!』
『げほっ!げほっ!』
『ほら、もう大丈夫。ね、シンちゃん、そんなに泣かないで』
『さ、シンジ、アスカちゃんをよしよししてあげて』
『うん、ね、あすか、泣かないでよ。ね、僕たち、ふ〜ふになるんだから。
けっこんするんだよ。ね、あすか…』
『ぐすっ、ぐすっ…』
『貴方、いつまで撮ってるんですか。こんなに大変なときに』
『ふっ、問題ない。これは歴史的に重要な…』
ばしっ!おばさまのチョップがおじさまに炸裂したわ。
おじさま、可哀相。こんなに貴重な映像を残したっていうのに。
あ…。
シンジの言ってたことは正しかったんだ。
完全に忘れてたわね。喉つまらせてたから、シンジの言ったこと聞いてなかったんだ。
う〜ん、ということは、私以外の家族全員これを認識してるって事よね。
や、や、や、やったぁっ!
これでシンジと私は、正真正銘のふ〜ふよ、ふ〜ふ。
証拠はバッチリ残ってるし、くくく…、もう誰にも邪魔はさせないわ。
「シンジ!これダビングして!今すぐして!早くして!」
「うん!」
シンジの誇らしげな表情。
そっか、アンタは8年前からだんな様になってたんだ。
くぅ〜っ!
じゃ、私なんか、8年前から奥様になっていたことを知らなかったってわけ?
悔しいけど、嬉しい!
その夜、私は徹夜でこの場面をリピート再生で楽しんだの。
翌朝はふらふらだったから、シンジの腕にしっかりと縋って登校したわ。
もちろん、顔には満面の笑みを浮かべてね。
あ、当然、私のオフィシャル記録集第3巻の48ページには赤で訂正を入れたわ。
『この日、私たちは夫婦になりました(ハ〜ト)』ってね。
ところが、ツルペタと冷血はしつこいの。
私たちはオフィシャルで夫婦なんだから、
さっさとあきらめればいいものを『何を今さら!』なんですって。
学校では私とシンジは非公式に夫婦扱いされていたんだって。
全然知らなかったわ。
まあ、いいわ。シンジは不倫するような男じゃないもん。
私とシンジの間には、コンマ1mmの隙間だって存在しないんだから!
さぁて、来年に予定していた誕生日プレゼントは、
なんと8年前にもらっちゃっていたから、別のものをもらわなきゃ。
婚約指輪は欲しいけど、まだ学生のシンジには可哀相だもんね。
えっと、何がいいかな…?
そ〜だ。アレよ、アレ!アレがいいわ!
ち、誓いのアレよ!
ふ、ファーストキッスは幼稚園のときにすましてるから、
きちんとした、ち、ち、誓いのキスをするの。
よし!決めたわ!
15歳の誕生日まで、あと363日なのよ!
<おしまい>
<あとがき>
このあと、シンジはアスカの愛の日記帳を第1巻から順に朗読してもらうのが日課になりました。
アスカはシンジのDVDをダビングしてもらって、シーンチェックをしているそうな。
こんにちは、ジュンです。
生誕記念SSその1を書いたリハビリは、この作品で完了!連載作品の執筆に戻ります。